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2007年2月号

バックナンバー
編集長: 木村蒹葭堂(大坂)

特集.txt - メモ帳
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【特集】映画『ラストキング・オブ・スコットランド』とイディ・アミン ・ 初出: 2007年2月

独裁者イディ・アミンは誰の顔で記憶されるのか——ウィッテカーのオスカー受賞と、息子ジャファーの異議

第79回アカデミー賞で、イディ・アミンを演じたフォレスト・ウィッテカーが主演男優賞を獲得。そのウガンダでは、アミンの息子が映画に異を唱えた。スクリーンの独裁者像は、どこまで史実なのか。

ロサンゼルス時間2月25日(日本時間26日)、第79回アカデミー賞の主演男優賞に『ラストキング・オブ・スコットランド』のフォレスト・ウィッテカーが選ばれた。1970年代のウガンダを8年にわたって支配した大統領イディ・アミンを演じての受賞である。本命視されていたディカプリオが立ち上がって拍手を送るなか、ウィッテカーは震える声で「ウガンダ国民」への感謝を口にしたという。 映画の骨組みも確かめておきたい。原作はジャイルズ・フォーデンの小説、監督はケビン・マクドナルド。物語はスコットランドから来た若い医師ニコラスの目を通して進むが、このニコラスは複数の西洋人をモデルに作られた架空の人物だ。観客は実在の独裁者を、架空の青年の視線越しに眺めることになる。史実と虚構の継ぎ目は、最初から作品の設計図に書き込まれているわけだ。 その継ぎ目に、当のウガンダから声が上がっている。17日に首都で開かれたプレミアにはウィッテカー本人も出席したが、政府系新聞の編集者は「アフリカの物語をハリウッド式に取り扱っている。西洋人の観客のために作られたもの」と冷ややかだった。さらに現地公開を受けて、アミンの息子ジャファー・アミン氏がコメントを出した。権利団体によれば、アミン政権の8年間には秘密警察による拷問や殺害が繰り返され、およそ50万人が消息不明になった。ジャファー氏はその残虐さを認めつつも、映画はマイナスの印象を誇張していると語り、「父の、親としての姿も見せたい」と述べたという。 では、息子の言い分は身内びいきとして片付けてよいのか。逆に、映画のアミン像をそのまま史実と受け取ってよいのか。どちらも少々安易に思える。50万人という数字は権利団体の推計であり、誰かが一人ずつ数え上げたものではない。かといって、推計に幅があることが弾圧のなかった証明になるはずもない。架空の語り手を立てた映画は真実に迫る手段として有効だが、観客が覚えて帰るのは史料ではなく、ウィッテカーの顔なのである。 史書が勝者の筆で書かれるなら、映画は俳優の顔で書かれる。日本公開は3月10日。劇場を出たあと、あの8年間に何があったのかを記録の側から確かめてみる。そこまでやって、ようやくこの映画を観たと言えるのではないか。

#イディ・アミン#ウガンダ#アフリカ現代史#世界史#映画史#アカデミー賞
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【特集】第79回アカデミー賞と、近い過去を描いた映画 ・ 初出: 2007年2月

硫黄島、ダイアナ、ボビー——オスカーの週に並んだ「近い過去」の映画たち

第79回アカデミー賞で『硫黄島からの手紙』が音響編集賞、『クィーン』のヘレン・ミレンが主演女優賞。同じ週には、ロバート・F・ケネディ暗殺の夜を描く『ボビー』も封切られた。

日本時間2月26日の朝は、授賞式の速報を追いかけて仕事にならなかった。今年のアカデミー賞は、歴史好きの目で眺めるとなかなか味わい深い顔ぶれだったのである。 まずは『硫黄島からの手紙』。クリント・イーストウッド監督、渡辺謙主演のこの作品が、音響編集賞でオスカーを手にした。発表前には、監督の「逃げ場のなかった、わが国の戦争相手の姿。勝ち負けではなく、どんな犠牲を彼らが払ったかということを描きたかった」という言葉も伝えられていた。イーストウッドは『父親たちの星条旗』と合わせて、硫黄島の戦いを日米両方の側から撮っている。今月はじめには、アメリカ映画協会から初の「ヒューマニタリアン・アワード」を贈られることも決まり、会長は二部作を「人間の物語を語る映画の真の力」と評していた。 主演女優賞は『クィーン』のヘレン・ミレン。1997年8月31日にダイアナ元妃が事故で亡くなってから国葬までの数日間、エリザベス女王と王室がどう揺れたかを描いた作品だ。ミレンは壇上で「50年間に渡って、尊厳と、髪型を保ちつづけた」女王を称え、オスカー像を高々と掲げたという。描かれた当人がいまも在位中の君主というのが、何とも大胆やなあ。日本公開は4月の大型連休から。 もう一本、授賞式の前日24日に封切られたのが『ボビー』。1968年、ロバート・F・ケネディが撃たれた夜のアンバサダーホテルに居合わせた22人を描く群像劇で、アンソニー・ホプキンスやシャロン・ストーン、デミ・ムーアらが、ギャラ一律2千ドルで出演したそうだ。監督エミリオ・エステヴェスの熱意に打たれての出演だという。 1945年、1968年、1997年。並べてみると、どれも「近い過去」である。関係者がまだ生きていて、記憶も写真も山ほど残っている時代をどう撮るか。遠い合戦絵巻より、よほど骨の折れる仕事かもしれへん。三本とも、パンフレットは是非とも手元に揃えておきたい。見比べながら、それぞれの切り取り方を確かめてみるつもりである。

#硫黄島の戦い#太平洋戦争#英国王室#ロバート・F・ケネディ#映画史#アカデミー賞
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【特集】映画『蒼き狼 地果て海尽きるまで』とチンギス・ハーン ・ 初出: 2007年2月

草原の覇者に39億円の大勝負——角川春樹『蒼き狼』、チンギス・ハーン映画の算盤勘定

チンギス・ハーンの生涯を描く『蒼き狼 地果て海尽きるまで』のワールド・プレミアが開かれた。製作費30億円、444スクリーン、宣伝費9億円。数字ずくめの超大作の懐具合をのぞいてみる。

構想27年、オールモンゴルロケ4か月、総製作費30億円。数字を並べただけで算盤を弾く指が止まらなくなる映画が、3月3日に封切られる。角川春樹製作の『蒼き狼 地果て海尽きるまで』だ。2月23日には東京国際フォーラムでワールド・プレミアが開かれ、主演の反町隆史をはじめ、菊川怜、若村麻由美、松山ケンイチ、松方弘樹、澤井信一郎監督らが顔をそろえた。 題材はチンギス・ハーンの生涯。草原の一部族に生まれた少年テムジンが諸部族を束ね、1206年にチンギス・ハーンの名のもとでモンゴル帝国を打ち立てるまでを描く。その建国からちょうど800年の節目が昨年だったから、巡り合わせとしても悪くない。 さて、ここからが本題である。総製作費30億円は邦画史上最大、公開規模も444スクリーン(23日時点)で邦画史上最大、そこへ宣伝費9億円が乗る。足せば39億円だ。映画の興行収入は、そっくり作り手の懐に入るわけではない。劇場の取り分を引き、配給の手数料を引き……と町人の算用でざっくり見積もるだけで、元を取るには興行収入が39億円どころでは済まない勘定になる。これ、なんぼ当たったら帳尻が合うんやろう。 当の角川氏は「映画製作にばくちはつきもの!」と涼しい顔だ。自らを「チンギス・ハーンの生まれ代わり」と公言する御仁だけに、この大勝負も覇業の続きのつもりなのかもしれない。64歳にして「僕は死ぬ予定はないんで、まだまだ映画を作りつづけますよ」と言い放ち、元気の源を問われれば「女性です!!」と即答したというから、外野が気を揉むのは野暮というものか。 思えばモンゴル帝国も、戦の強さだけで大きくなったわけではない。商人を重んじ、東西を結ぶ交易の道を押さえたことが、帝国の屋台骨になったとも言われる。草原の覇者は、案外したたかな勘定上手でもあったのだ。銀幕のテムジンが天下を取るのか、それとも帳簿の上で討ち死にするのか。蓋が開くのは3月3日である。

#チンギス・ハーン#モンゴル帝国#世界史#映画史#角川春樹
かわら版
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歴史かわら版 ・ 2007年02月

「カノッサの屈辱」携帯電話の戦国時代描く、英雄は「ナポレ孫?」

バブル期の深夜番組「カノッサの屈辱」が一夜限りで復活。ささいな題材を大まじめに歴史仕立てで語るあの芸風で、今回は携帯電話の歴史をたどるそうな。教授役は伊武雅刀が受け継ぐ。

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歴史かわら版 ・ 2007年02月

ロマン・ポランスキー監督、「ポンペイの四日間」を映画化

ロマン・ポランスキー監督が、ロバート・ハリス原作の歴史スリラー「ポンペイの四日間」を映画化するらしい。古代都市が滅びるまでの4日間を描く物語で、撮影は今夏イタリアで始まる予定だとか。

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歴史かわら版 ・ 2007年02月

おんなパワー全開!土屋、蜷川、椎名が彩る遊女「さくらん」空前絶後の美

吉原の遊郭に売られた少女きよ葉が花魁へと育っていく、安野モヨコ原作の『さくらん』が2月24日に公開。監督は写真家の蜷川実花、音楽は椎名林檎。色街の世界が極彩色でよみがえるらしい。

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歴史かわら版 ・ 2007年02月

ハリソン・フォード、『インディ・ジョーンズ』新作の公開日決定

考古学者インディ・ジョーンズの4作目、公開日が2008年5月22日に決まったらしい。撮影開始は6月の予定。ハリソン・フォードは今年7月で65歳だが、前3作と同じ肉体アクションを入れると意気込んでいる。

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歴史かわら版 ・ 2007年02月

クリント・イーストウッド監督、フランスで勲章を受ける

『硫黄島からの手紙』の宣伝でフランスを訪れたクリント・イーストウッド監督が、シラク大統領からレジオン・ドヌール勲章を授けられた。大統領は監督としての才を「天才」と称えたという。

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歴史かわら版 ・ 2007年02月

山田洋次監督、吉永小百合にラブレター出していた!?

昭和15年から16年の東京、治安維持法違反で夫が検挙されたあとも娘ふたりを守る母を描く『母べえ』の製作発表。山田洋次監督は主演の吉永小百合に、出演を頼む手紙を自分で書いたと明かした。

今月のこんな人.txt - メモ帳
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今月のこんな人、知っていますか?

市丸利之助

予科練を育て、硫黄島から米大統領あての手紙を遺した海軍の将

映画『硫黄島からの手紙』で、あの島の名前を覚えた人も多いだろう。その硫黄島から、アメリカ大統領あての「手紙」を遺した海軍の将官がいる。市丸利之助である。 1891年、佐賀県の唐津の生まれ。海軍兵学校を出て、草創期の海軍航空でパイロットの道に進んだ。ところが1926年、訓練飛行中の墜落事故で大けがを負い、3年近い療養を強いられる。空に戻れなくなった市丸が打ち込んだのが若者の教育で、少年航空兵を育てる予科練の設立委員長を務め、初代の部長にもなった。のちに「予科練育ての親」と呼ばれるゆえんだ。 1944年8月、第27航空戦隊司令官として硫黄島へ。陸軍の栗林忠道中将とともに島の守りについた。最期が迫るなか、市丸は「ルーズベルトニ与フル書」をしたため、英訳させて部下の大尉に託す。ヒトラーと戦いながらスターリンのソ連と手を組むアメリカの矛盾を突いた文面だった。大尉は最後の突撃で戦死したが、手紙はアメリカ側の手に渡り、同年7月には米国の新聞に載った。市丸自身の遺体は、いまも見つかっていない。 手紙はアナポリスの博物館に残っているという。映画を観たら、この人の名前も一緒に覚えておいてほしいもんやなあ。

#市丸利之助#硫黄島の戦い#予科練#太平洋戦争#海軍
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投稿狂歌コーナー ・ お題「映画『蒼き狼 地果て海尽きるまで』とチンギス・ハーン」

銀幕に 三十億の 大ばくち 地果て海尽き 元は取れるか

─ 場末の算盤弾き ─

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2007年2月号、ようやく紙面が埋まりました。今月はとにかく映画の月やったなあ、というのが正直なところです。アカデミー賞の夜には、アミン、硫黄島、エリザベス女王と、史実を題材にした作品が次々に名前を呼ばれ、スクリーンの上でも歴史が大忙しでした。 秋成さんは独裁者の「顔」の問題を、西鶴さんはチンギス・ハーン映画の懐具合を、わたしは近い過去を撮る難しさを、それぞれの持ち場から書いています。こんな人のコーナーでは、硫黄島から米大統領に手紙を遺した市丸利之助を取り上げました。 映画は歴史への入口として最高の道具ですが、入口に立ったまま帰ってしまうのはもったいない。気になった一本があったら、その時代について書かれた本を一冊、並べて読んでみてください。わたしのほうは、パンフレットの置き場所に早くも困っております。