潜伏キリシタン遺産、世界遺産に正式登録。五島で記念切手発売、天草・崎津では三宗教巡拝の御朱印も
6月30日、バーレーンでのユネスコ世界遺産委員会で「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界文化遺産登録が正式決定。7月の現地は記念切手発売や三宗教巡拝など祝福の気に満ちた。
春のイコモス勧告から待ち焦がれることふた月、ついにその日がやってきた。バーレーンで開かれていたユネスコ世界遺産委員会において、6月30日、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の登録が満場一致で正式決定されたのである。二百数十年にわたり、禁教の嵐のなかで独自の共同体を維持し、密やかに祈りを紡ぎ続けた歴史が、世界の宝として認められた瞬間であった。 明けて7月、長崎や熊本の現地は祝賀の熱気に包まれた。毎日新聞が報じるように、五島列島の五島市内では登録を記念したフレーム切手1000シートが発売され、郵便局の窓口に早くも列ができたという。五島のかくれキリシタンの里や崩れかけた祈りの石積みに、いま新たな光が注がれている。 一方、熊本県天草市の崎津集落では、朝日新聞が興味深い動きを伝えている。神道の崎津神社、仏教の普応寺、そしてキリスト教の崎津教会が手を携え、宗教の垣根を越えた「三宗教巡拝」として御朱印(参拝記念証)を授与する試みが始まった。教会堂で御朱印帳に証を記す光景は異例の出来事だが、禁教の世にあって仏教や神道と折り合いをつけながら信仰を守り抜いた崎津の歴史を思えば、これほど胸を打つ融和の形もあるまい。 海を渡る風のなかに響く教会の鐘の音。苦難の過去を抱き留めつつ、未来へと信仰と平和の物語を手渡そうとする人々の静かな歓びを、道往く者として心より寿ぎたい。
潜伏キリシタン遺産、世界遺産に正式登録。五島で記念切手発売、天草・崎津では三宗教巡拝の御朱印も
6月30日、バーレーンでのユネスコ世界遺産委員会で「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界文化遺産登録が正式決定。7月の現地は記念切手発売や三宗教巡拝など祝福の気に満ちた。
春のイコモス勧告から待ち焦がれることふた月、ついにその日がやってきた。バーレーンで開かれていたユネスコ世界遺産委員会において、6月30日、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の登録が満場一致で正式決定されたのである。二百数十年にわたり、禁教の嵐のなかで独自の共同体を維持し、密やかに祈りを紡ぎ続けた歴史が、世界の宝として認められた瞬間であった。 明けて7月、長崎や熊本の現地は祝賀の熱気に包まれた。毎日新聞が報じるように、五島列島の五島市内では登録を記念したフレーム切手1000シートが発売され、郵便局の窓口に早くも列ができたという。五島のかくれキリシタンの里や崩れかけた祈りの石積みに、いま新たな光が注がれている。 一方、熊本県天草市の崎津集落では、朝日新聞が興味深い動きを伝えている。神道の崎津神社、仏教の普応寺、そしてキリスト教の崎津教会が手を携え、宗教の垣根を越えた「三宗教巡拝」として御朱印(参拝記念証)を授与する試みが始まった。教会堂で御朱印帳に証を記す光景は異例の出来事だが、禁教の世にあって仏教や神道と折り合いをつけながら信仰を守り抜いた崎津の歴史を思えば、これほど胸を打つ融和の形もあるまい。 海を渡る風のなかに響く教会の鐘の音。苦難の過去を抱き留めつつ、未来へと信仰と平和の物語を手渡そうとする人々の静かな歓びを、道往く者として心より寿ぎたい。
大河『西郷どん』禁門の変で見せた変貌——のちの「日本警察の父」川路利良と薩摩藩士の軌跡
NHK大河『西郷どん』第28回「寺田屋騒動」から禁門の変へ。西郷隆盛の腹心として頭角を現し、のちに近代日本の警察制度を創り上げた川路利良に光が当たる。
NHK大河ドラマ『西郷どん』が熱い。物語は幕末の激動期、薩摩藩が中央政局の主導権を握るべく舵を切る緊迫の展開を迎えている。7月29日放送の第28回では、川路正之進(利良)役を演じる泉澤祐希さんがWEBザテレビジョンのインタビューで、禁門の変を経て変化していく役柄の心境と撮影の舞台裏を語っていた。実直な若武者が、砲火と血煙のなかで西郷の命を受け、冷徹な統率力を身につけていく過程が見事に描かれている。 川路利良といえば、明治維新後に初代大警視(警視総監)を務め、「日本警察の父」と称される薩摩の俊英である。産経ニュースによれば、鹿児島県立図書館にはフランスを模範とした警察制度の導入に関する資料をはじめ、川路の直筆書簡や足跡を伝える貴重な史料が数多く所蔵されているという。下級武士の出でありながら、欧州視察を通じて近代法治国家に不可欠な警察のあり方を学び取り、首都の治安網を築き上げた手腕は並大抵のものではない。 大河ドラマを通じて、歴史の主役だけでなく、その背後で近代国家の骨格を組み立てた実務家たちに再び光が当たるのは、実に意義深いことだ。ドラマの展開とともに、鹿児島や東京に残る川路の足跡を改めて見つめ直してみたい。
大河『西郷どん』禁門の変で見せた変貌——のちの「日本警察の父」川路利良と薩摩藩士の軌跡
NHK大河『西郷どん』第28回「寺田屋騒動」から禁門の変へ。西郷隆盛の腹心として頭角を現し、のちに近代日本の警察制度を創り上げた川路利良に光が当たる。
NHK大河ドラマ『西郷どん』が熱い。物語は幕末の激動期、薩摩藩が中央政局の主導権を握るべく舵を切る緊迫の展開を迎えている。7月29日放送の第28回では、川路正之進(利良)役を演じる泉澤祐希さんがWEBザテレビジョンのインタビューで、禁門の変を経て変化していく役柄の心境と撮影の舞台裏を語っていた。実直な若武者が、砲火と血煙のなかで西郷の命を受け、冷徹な統率力を身につけていく過程が見事に描かれている。 川路利良といえば、明治維新後に初代大警視(警視総監)を務め、「日本警察の父」と称される薩摩の俊英である。産経ニュースによれば、鹿児島県立図書館にはフランスを模範とした警察制度の導入に関する資料をはじめ、川路の直筆書簡や足跡を伝える貴重な史料が数多く所蔵されているという。下級武士の出でありながら、欧州視察を通じて近代法治国家に不可欠な警察のあり方を学び取り、首都の治安網を築き上げた手腕は並大抵のものではない。 大河ドラマを通じて、歴史の主役だけでなく、その背後で近代国家の骨格を組み立てた実務家たちに再び光が当たるのは、実に意義深いことだ。ドラマの展開とともに、鹿児島や東京に残る川路の足跡を改めて見つめ直してみたい。
「泥臭い金勘定」から巨大財閥へ——岩崎弥太郎のリアリズムと土佐商人のそろばん
「三菱はゲスなものから事業を拡大した」。PRESIDENT Onlineの論考が話題を呼んだ7月。土佐藩の地下浪人から身を起こし、政商として近代産業の巨歩を記した岩崎弥太郎の商魂を西鶴が読む。
世間では綺麗事を並べた成功譚ばかりがもてはやされるが、商売の真骨頂はいつの時代も泥臭い現場のそろばん勘定にある。PRESIDENT Onlineが掲載した「三菱は『ゲスなもの』から事業を拡大した 率先して金勘定を学んだ岩崎弥太郎」という記事が、まさにその急所を突いていて痛快であった。 土佐の最下層の武士、地下浪人の家に生まれた岩崎弥太郎。食うや食わずの極貧のなかで育ち、藩の開成館貨殖局で金勘定と貿易の実務を徹底的に叩き込まれた。幕末の動乱期、土佐藩の負債と船を引き継ぐ形で九十九商会(のちの三菱商会)を立ち上げ、海運業に乗り出した弥太郎の徹底した利に敏い姿勢を、記事は「ゲス」という挑発的な言葉で表現している。だが、武士の対面ばかりを気にして商売を侮っていた幕末の志士たちと違い、一文の損得に命を賭けたからこそ、三菱という巨大な企業体が生まれたわけや。 西南戦争の軍事輸送を一手に引き受けて巨利を得たことも含め、清濁併せ呑むエネルギーこそが維新という時代を動かした原動力やった。綺麗事の歴史観では見えてこぬ、生々しい人間の欲と商魂のたくましさ。大坂の商人の目で見ても、弥太郎の商才には舌を巻くばかりやで。
「泥臭い金勘定」から巨大財閥へ——岩崎弥太郎のリアリズムと土佐商人のそろばん
「三菱はゲスなものから事業を拡大した」。PRESIDENT Onlineの論考が話題を呼んだ7月。土佐藩の地下浪人から身を起こし、政商として近代産業の巨歩を記した岩崎弥太郎の商魂を西鶴が読む。
世間では綺麗事を並べた成功譚ばかりがもてはやされるが、商売の真骨頂はいつの時代も泥臭い現場のそろばん勘定にある。PRESIDENT Onlineが掲載した「三菱は『ゲスなもの』から事業を拡大した 率先して金勘定を学んだ岩崎弥太郎」という記事が、まさにその急所を突いていて痛快であった。 土佐の最下層の武士、地下浪人の家に生まれた岩崎弥太郎。食うや食わずの極貧のなかで育ち、藩の開成館貨殖局で金勘定と貿易の実務を徹底的に叩き込まれた。幕末の動乱期、土佐藩の負債と船を引き継ぐ形で九十九商会(のちの三菱商会)を立ち上げ、海運業に乗り出した弥太郎の徹底した利に敏い姿勢を、記事は「ゲス」という挑発的な言葉で表現している。だが、武士の対面ばかりを気にして商売を侮っていた幕末の志士たちと違い、一文の損得に命を賭けたからこそ、三菱という巨大な企業体が生まれたわけや。 西南戦争の軍事輸送を一手に引き受けて巨利を得たことも含め、清濁併せ呑むエネルギーこそが維新という時代を動かした原動力やった。綺麗事の歴史観では見えてこぬ、生々しい人間の欲と商魂のたくましさ。大坂の商人の目で見ても、弥太郎の商才には舌を巻くばかりやで。
踏絵越え 二百余年の 波枕 明けて島原 世界にとどく
─ 有明の汐汲み ─
踏絵越え 二百余年の 波枕 明けて島原 世界にとどく
─ 有明の汐汲み ─
2018年7月号をお届けいたします。今号はなんといっても「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録決定の吉報が筆頭でございます。芭蕉翁が五島や崎津に息づく祈りと融和の風景を丁寧に掬い上げてくださいました。 大河ドラマ『西郷どん』の白熱にあわせて、近代警察の礎を築いた薩摩の俊英・川路利良の足跡を振り返り、西鶴はんには岩崎弥太郎の泥臭い商魂に切り込んでもらいました。動乱の世を駆け抜けた先人たちのエネルギーに触れるたび、歴史という織物の奥深さに胸打たれる思いがいたします。大坂の書斎にて古書を繙きつつ、読者の皆様とともに学びを深めてまいりましょう。(木村蒹葭堂)
2018年7月号をお届けいたします。今号はなんといっても「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録決定の吉報が筆頭でございます。芭蕉翁が五島や崎津に息づく祈りと融和の風景を丁寧に掬い上げてくださいました。 大河ドラマ『西郷どん』の白熱にあわせて、近代警察の礎を築いた薩摩の俊英・川路利良の足跡を振り返り、西鶴はんには岩崎弥太郎の泥臭い商魂に切り込んでもらいました。動乱の世を駆け抜けた先人たちのエネルギーに触れるたび、歴史という織物の奥深さに胸打たれる思いがいたします。大坂の書斎にて古書を繙きつつ、読者の皆様とともに学びを深めてまいりましょう。(木村蒹葭堂)