「倒れざる者」の執念——近大創設者・世耕弘一、苦学の専検突破から大学昇格募金運動まで
「ラクダが針の穴を通るより難しい」専検を突破し、日本大学の昇格募金に奔走。のちに近畿大学を創設した世耕弘一の若き日を追う連載が産経新聞・Kindai Picksで反響を呼んだ。
苦学力行という言葉が、これほど似合う人物も珍しい。のちに近畿大学を創設し、戦後の教育界と政界に独自の足跡を残した世耕弘一(1893〜1965)。Kindai Picksと産経ニュースで展開された評伝連載「倒れざる者〜近畿大学創設者 世耕弘一伝」が、その知られざる青年期の苦闘を活写していて実に読ませる。 和歌山県の山村に生まれ、経済的困窮から高等小学校卒業後は上京して印刷工や車夫、給仕として働きながら独学。当時の専門学校入学者検定試験(専検)は合格率が極めて低く、「ラクダが針の穴を通るより難しい」と恐れられていた難関であった。弘一は睡眠を削り、全身全霊で学問に喰らいついて見事合格。日本大学法科に進学を果たしたのである。 大学進学後も弘一の熱血ぶりは留まるところを知らない。母校の日大を大学令に基づく「大学」へと昇格させるため、学生の身でありながら仲間とともに全国を行脚して寄付金集めに奔走した。さらに雄弁会や演劇活動で大衆の心を掴む演説力を磨き、のちの政治家・教育者としての土台を築き上げていく。 「実学教育」と「人格の陶冶」を掲げて近畿大学を西日本屈指の総合大学へと押し上げたバイタリティの源泉は、この青春時代の不屈の闘志にあったことがよく分かる。学問を志す若者への熱いエールとしても、心に刻んでおきたい連載である。
「倒れざる者」の執念——近大創設者・世耕弘一、苦学の専検突破から大学昇格募金運動まで
「ラクダが針の穴を通るより難しい」専検を突破し、日本大学の昇格募金に奔走。のちに近畿大学を創設した世耕弘一の若き日を追う連載が産経新聞・Kindai Picksで反響を呼んだ。
苦学力行という言葉が、これほど似合う人物も珍しい。のちに近畿大学を創設し、戦後の教育界と政界に独自の足跡を残した世耕弘一(1893〜1965)。Kindai Picksと産経ニュースで展開された評伝連載「倒れざる者〜近畿大学創設者 世耕弘一伝」が、その知られざる青年期の苦闘を活写していて実に読ませる。 和歌山県の山村に生まれ、経済的困窮から高等小学校卒業後は上京して印刷工や車夫、給仕として働きながら独学。当時の専門学校入学者検定試験(専検)は合格率が極めて低く、「ラクダが針の穴を通るより難しい」と恐れられていた難関であった。弘一は睡眠を削り、全身全霊で学問に喰らいついて見事合格。日本大学法科に進学を果たしたのである。 大学進学後も弘一の熱血ぶりは留まるところを知らない。母校の日大を大学令に基づく「大学」へと昇格させるため、学生の身でありながら仲間とともに全国を行脚して寄付金集めに奔走した。さらに雄弁会や演劇活動で大衆の心を掴む演説力を磨き、のちの政治家・教育者としての土台を築き上げていく。 「実学教育」と「人格の陶冶」を掲げて近畿大学を西日本屈指の総合大学へと押し上げたバイタリティの源泉は、この青春時代の不屈の闘志にあったことがよく分かる。学問を志す若者への熱いエールとしても、心に刻んでおきたい連載である。
ラストエンペラーの若き日の情熱と落日——映画『マチルダ 禁断の恋』が映すロマノフ王朝の黄昏
ロシア最後の皇帝ニコライ2世と伝説のバレリーナ、マチルダ・クシェシンスカヤの恋を描いた映画『マチルダ』が12月に日本公開。ロシア本国で上映妨害まで起きた話題作の歴史的背景に迫る。
1917年のロシア革命で銃殺され、悲劇のラストエンペラーとして知られるニコライ2世。その皇太子時代、マリインスキー劇場の若きバレエダンサー、マチルダ・クシェシンスカヤと交わした禁断の恋を描いた映画『マチルダ 禁断の恋』が日本でも公開され、大きな話題を呼んでいる。 ハフポストやELLEの記事によれば、ロシア本国では正教会の保守派や民族主義勢力から「聖人たる皇帝を侮辱している」と激しい抗議が巻き起こり、劇場への放火予告や上映妨害にまで発展したという。神聖視される国家元首のイメージと、若き日の生々しい情熱との落差が、現代のロシア社会にいかに強烈な波紋を投げかけたかが窺える。映画が描くのは、帝国の重責に押しつぶされそうになりながらも、一人の女性への愛に身を焦がす若き青年の生身の姿である。ニコライはやがてドイツ貴族のアレクサンドラと政略結婚を結び、過酷な宿命の車輪に巻き込まれていく。 主演のミハリナ・オルシャンスカはインタビューで、マチルダという女性の野心と純粋さを語っているが、王朝の栄華が極まるまさにその足元で、社会主義革命の火種が着実に燻っていた時代であった。豪奢を極めた冬宮の舞踏会と、やがてすべてが灰燼に帰すロマノフ王朝の黄昏。美しきメロドラマの枠組みを借りながら、一国の命運が暗転していく歴史の皮肉を深く噛み締めたい一本である。
ラストエンペラーの若き日の情熱と落日——映画『マチルダ 禁断の恋』が映すロマノフ王朝の黄昏
ロシア最後の皇帝ニコライ2世と伝説のバレリーナ、マチルダ・クシェシンスカヤの恋を描いた映画『マチルダ』が12月に日本公開。ロシア本国で上映妨害まで起きた話題作の歴史的背景に迫る。
1917年のロシア革命で銃殺され、悲劇のラストエンペラーとして知られるニコライ2世。その皇太子時代、マリインスキー劇場の若きバレエダンサー、マチルダ・クシェシンスカヤと交わした禁断の恋を描いた映画『マチルダ 禁断の恋』が日本でも公開され、大きな話題を呼んでいる。 ハフポストやELLEの記事によれば、ロシア本国では正教会の保守派や民族主義勢力から「聖人たる皇帝を侮辱している」と激しい抗議が巻き起こり、劇場への放火予告や上映妨害にまで発展したという。神聖視される国家元首のイメージと、若き日の生々しい情熱との落差が、現代のロシア社会にいかに強烈な波紋を投げかけたかが窺える。映画が描くのは、帝国の重責に押しつぶされそうになりながらも、一人の女性への愛に身を焦がす若き青年の生身の姿である。ニコライはやがてドイツ貴族のアレクサンドラと政略結婚を結び、過酷な宿命の車輪に巻き込まれていく。 主演のミハリナ・オルシャンスカはインタビューで、マチルダという女性の野心と純粋さを語っているが、王朝の栄華が極まるまさにその足元で、社会主義革命の火種が着実に燻っていた時代であった。豪奢を極めた冬宮の舞踏会と、やがてすべてが灰燼に帰すロマノフ王朝の黄昏。美しきメロドラマの枠組みを借りながら、一国の命運が暗転していく歴史の皮肉を深く噛み締めたい一本である。
伝統と革新のあわいに立つ巨匠——三浦篤著『エドゥアール・マネ』書評と近代絵画の夜明け
「好書好日」や沖縄タイムスで三浦篤氏の大著『エドゥアール・マネ』の書評が相次いだ12月。古典絵画の伝統を継ぎつつ、印象派への扉を開いたマネの多面的な魅力に迫る。
西洋近代絵画の歴史において、エドゥアール・マネ(1832〜1883)ほど重要でありながら捉えがたい画家もいない。朝日新聞の書評サイト「好書好日」や沖縄タイムスが大きく取り上げた三浦篤氏の著作『エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命』は、この巨匠の全体像を丹念に解き明かす待望の好著として美術ファンの間で大きな話題を呼んでいる。 『草上の昼食』や『オランピア』がサロンで大スキャンダルを巻き起こしたことはあまりに有名だが、マネ自身は決して体制の安易な破壊者を目指していたわけではなかった。ルーヴル美術館でヴェネツィア派やベラスケスらスペイン絵画の巨匠たちを徹底的に模写し、伝統的な西洋絵画の文法を誰よりも深く身につけていたからこそ、同時代の市民社会や風俗を新たな眼差しでカンバスに定着させることができたのである。近代の生活を描くには、過去の技法を忠実に模倣するだけでは足りず、しかし伝統の背骨を失っては単なる風俗画に堕してしまう。そのあわいでの葛藤こそがマネの絵筆を研ぎ澄ませた。 「古典と現代の融合共存を試す」という好書好日の見出しどおり、過去の遺産を否定するのではなく、自らの時代の光と影によって再解釈し刷新していく姿勢。書画骨董を愛でる者の端くれとしても、古き名品をただ神棚に祀るのではなく、いかに現代の息吹を吹き込むかというマネの生涯の苦闘には、深く共鳴させられるものがある。西洋美術の大きな転換点を捉え直すための格好の手引書といえよう。
伝統と革新のあわいに立つ巨匠——三浦篤著『エドゥアール・マネ』書評と近代絵画の夜明け
「好書好日」や沖縄タイムスで三浦篤氏の大著『エドゥアール・マネ』の書評が相次いだ12月。古典絵画の伝統を継ぎつつ、印象派への扉を開いたマネの多面的な魅力に迫る。
西洋近代絵画の歴史において、エドゥアール・マネ(1832〜1883)ほど重要でありながら捉えがたい画家もいない。朝日新聞の書評サイト「好書好日」や沖縄タイムスが大きく取り上げた三浦篤氏の著作『エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命』は、この巨匠の全体像を丹念に解き明かす待望の好著として美術ファンの間で大きな話題を呼んでいる。 『草上の昼食』や『オランピア』がサロンで大スキャンダルを巻き起こしたことはあまりに有名だが、マネ自身は決して体制の安易な破壊者を目指していたわけではなかった。ルーヴル美術館でヴェネツィア派やベラスケスらスペイン絵画の巨匠たちを徹底的に模写し、伝統的な西洋絵画の文法を誰よりも深く身につけていたからこそ、同時代の市民社会や風俗を新たな眼差しでカンバスに定着させることができたのである。近代の生活を描くには、過去の技法を忠実に模倣するだけでは足りず、しかし伝統の背骨を失っては単なる風俗画に堕してしまう。そのあわいでの葛藤こそがマネの絵筆を研ぎ澄ませた。 「古典と現代の融合共存を試す」という好書好日の見出しどおり、過去の遺産を否定するのではなく、自らの時代の光と影によって再解釈し刷新していく姿勢。書画骨董を愛でる者の端くれとしても、古き名品をただ神棚に祀るのではなく、いかに現代の息吹を吹き込むかというマネの生涯の苦闘には、深く共鳴させられるものがある。西洋美術の大きな転換点を捉え直すための格好の手引書といえよう。
倒れじと 針の穴をも 通り抜け 拓く学びの 梅は満開
─ 生駒の石切小僧 ─
倒れじと 針の穴をも 通り抜け 拓く学びの 梅は満開
─ 生駒の石切小僧 ─
年の瀬の2018年12月号をお届けいたします。今号は「倒れざる者」として不屈の苦学から近畿大学を築いた世耕弘一の若き日の軌跡を特集いたしました。大坂・関西に根を下ろす私どもにとりましても、その逞しい実学精神には深く襟を正される思いがいたします。 また、秋成はんにはロシア最後の皇帝の落日を描いた映画『マチルダ』の歴史考証を、私からは西洋絵画史の転換点に立つマネの書評をご紹介いたしました。古今東西の知と格闘した先人たちを偲びつつ、新しい年も読者の皆様とともに探求の歩みを進めてまいりたく存じます。(木村蒹葭堂)
年の瀬の2018年12月号をお届けいたします。今号は「倒れざる者」として不屈の苦学から近畿大学を築いた世耕弘一の若き日の軌跡を特集いたしました。大坂・関西に根を下ろす私どもにとりましても、その逞しい実学精神には深く襟を正される思いがいたします。 また、秋成はんにはロシア最後の皇帝の落日を描いた映画『マチルダ』の歴史考証を、私からは西洋絵画史の転換点に立つマネの書評をご紹介いたしました。古今東西の知と格闘した先人たちを偲びつつ、新しい年も読者の皆様とともに探求の歩みを進めてまいりたく存じます。(木村蒹葭堂)