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2021年9月号

バックナンバー
編集長: 木村蒹葭堂(大坂)

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【特集】油小路事件と御陵衛士 ・ 初出: 2021年9月

亡骸は囮にされた——油小路事件と、生き延びた御陵衛士・篠原泰之進

新選組を離れた伊東甲子太郎が暗殺され、その亡骸を囮に御陵衛士が斬り合いへ誘い出された油小路事件。9月は司馬遼太郎『新選組血風録』のマンガ版がこの事件を描き、単行本も最終巻を迎えた。

美談で語られがちな新選組にあって、これほど後味の悪い事件もない。慶応3年(1867)11月、京都の油小路で起きた、いわゆる油小路事件である。 新選組の参謀格だった伊東甲子太郎は、この年の春、同志を連れて隊を離れ、孝明天皇の御陵を守る「御陵衛士」を名乗った。その伊東が、近藤勇の妾宅に招かれる。酒を振る舞われ、ほろ酔いで帰る途中、待ち伏せていた隊士たちに斬られた。ここまでならよくある暗殺だが、新選組はさらに、伊東の亡骸を路上に置いたまま、引き取りに来る御陵衛士たちを待ち構えた。亡骸を囮にしたのである。 この9月、司馬遼太郎の『新選組血風録』をマンガにした連載が、ちょうどこの場面にさしかかっていた。「この死体をオトリにして」という台詞が見出しになり、土方歳三の非情な決断から組織の論理を読み解こうとする記事まで出た。単行本の『新選組血風録(三)』も9月15日に発売され、これが最終巻だという。 御陵衛士の一人、篠原泰之進も、この夜の斬り合いを生き延びた一人だ。連載では、篠原が祇園の茶屋でお運びをしていた「おけい」を見初める場面も描かれていた。血なまぐさい話のなかに、そうした色恋の一幕を挟むのが司馬の手際である。 ただ、ここで一つ釘を刺しておきたい。『血風録』はあくまで小説であり、それをもとにしたマンガである。篠原は明治まで生き延びて、当時のことを書き残してもいる。しかし、生き残った者の記録は、生き残った者の目で書かれる。土方がどこまで冷酷だったのか、伊東がどこまで無防備だったのか。小説の名場面を史実と取り違えないよう、読み手の側がいったん立ち止まる必要があるのだろう。 とはいえ、百五十年前の京の夜の冷たさを、紙の上から伝えてくる力は確かなものだ。読んだあとには、油小路の辻を一度歩いてみたくなる。

#油小路事件#伊東甲子太郎#御陵衛士#篠原泰之進#新選組血風録#司馬遼太郎
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【特集】太田道灌の江戸と千葉常胤の千葉城 ・ 初出: 2021年9月

湿地の江戸、丘の上の千葉城——坂東の城を、誰が最初に見つけたのか

片田舎の湿地帯だった江戸に着目したのは太田道灌で、家康が幕府を開いたのは必然だった——作家と歴史学者の対談が話題に。月末には「千葉城は千葉常胤ゆかりの城なのか」と問う記事も出た。坂東の城の来歴をたどる。

わたしが庵を結んだ深川は、もとをたどれば水の多い低地である。江戸という町そのものが、海と川と湿地の上に築かれたと言ってよい。 その江戸について、作家の伊東潤さんと歴史学者の本郷和人さんが対談し、「湿地帯で片田舎の江戸に太田道灌が着目し、徳川家康が幕府を開いたのは必然だった」と語り合っている。太田道灌は室町時代の武将で、長禄元年(1457)に江戸城を築いたことで知られる。関東では長尾景春の乱などの戦が続き、道灌はその鎮圧に奔走した。そうした乱世のなかで、道灌が見込んだ土地に、百三十年あまりのちの天正18年(1590)、家康が入ることになるわけだ。 一方、月末には「千葉城は千葉常胤ゆかりの城なのか?」と問いかける記事も出た。千葉常胤は平安時代の終わりから鎌倉時代の初めにかけての武将で、挙兵した源頼朝をいち早く支えたことで名高い。千葉市の亥鼻の丘には、天守を持つ「千葉城」が建っている。ただ、この天守は昭和になって郷土博物館として建てられたもので、中世の城にもとからあったわけではない。記事は「天守だけじゃない、日本の城の楽しみ方」を副題に、その来歴を掘り下げている。 江戸城も千葉城も、今の姿だけを見れば、どちらも立派な「お城」である。けれど、その土地を最初に選んだ人、そこに暮らした人、あとから物語を重ねた人は、それぞれ違う。城を訪ねるなら、天守を仰ぐだけでなく、足もとの地形や、堀の跡、坂の向きにも目をやりたい。道灌がなぜこの湿地を選んだのか、常胤の一族がどの丘に拠ったのか。答えは案外、土の上に残っているものだ。 秋風の立つころ、坂東の城を一つ二つ、杖をついて歩いてみるのもよい。天守の外にこそ、五百年、八百年の時が眠っている。

#太田道灌#江戸城#千葉常胤#千葉城#長尾景春#城
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【特集】米国で相次ぐ歴史上の人物の像の撤去 ・ 初出: 2021年6月〜2021年9月

像は誰のために立つのか——南軍リー将軍、ルーズベルト元大統領の像がアメリカで去る

9月8日、米バージニア州リッチモンドで南軍のリー将軍の銅像が撤去された。6月にはニューヨークの博物館前に立つセオドア・ルーズベルト元大統領の像の撤去も報じられている。歴史上の人物の像をめぐる、アメリカの揺れを見る。

書画や彫り物を集める身として、像というものには少々うるさい。像は、その人を記憶するためにある。けれど、誰がどんな思いでその像を立てたのかによって、同じ像がまるで違う意味を帯びることがある。 9月8日、アメリカ南部バージニア州の州都リッチモンドで、南北戦争の南軍を率いたロバート・E・リー将軍の銅像が撤去された。リッチモンドは南部連合の首都が置かれた町で、リー将軍は長く南部の英雄としてたたえられてきた。一方で、その像は奴隷制を守ろうとした側の象徴でもある。台座から下ろされる将軍の姿は、アメリカが自らの歴史とどう向き合うかを、はっきりと映し出していた。 さかのぼって6月には、ニューヨークのアメリカ自然史博物館の前に立つ、セオドア・ルーズベルト元大統領の像の撤去も報じられた。馬に乗った大統領の両脇に、アメリカ先住民とアフリカ系の男性が徒歩で従う構図で、人種の上下を表しているとの批判が以前からあった像である。 どちらも、像の主が生きた時代には、それが当たり前の姿だったのかもしれない。だが、像は立てたときの価値観を、そのまま百年先まで運んでしまう。そこに痛みを覚える人がいるなら、置き場所を考え直すのは自然なことだろう。撤去は、歴史を消すことではなく、どこでどう語るかを選び直すことだ、と見ることもできる。 日本にも似た話はある。上野の西郷隆盛像が除幕されたとき、未亡人の糸子が「うちの人はこんな人ではなかった」と漏らしたという逸話は有名だ。像は本人そのものではなく、あくまで立てた人々の思いの形なのである。 うちの蔵にも古い肖像画が何幅かあるが、描かれた人がどう見られたかったのか、描いた者がどう見せたかったのか。像や絵を前にしたら、そこまで考えてみたい。

#銅像#ロバート・E・リー#セオドア・ルーズベルト#南北戦争#西郷隆盛像
かわら版
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歴史かわら版 ・ 2021年09月

1918年の「スペイン風邪」はどう「収束」したのか:新型コロナの波と比較する(石田雅彦)

百年前に世界を襲ったスペイン風邪は、どのように収まっていったのか。流行の波を新型コロナと見比べる記事だ。疫病の歴史は、いつの時代も今を映す鏡になる。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

静岡で苦悩する旧幕臣たちを見て、下北半島でさらに過酷な生活を強いられた旧会津藩士に思いを馳せる【青天を衝け 満喫リポート】

大河『青天を衝け』で描かれた静岡の旧幕臣の苦境から、さらに厳しい暮らしを強いられた下北半島の旧会津藩士へと思いを広げるリポート。戊辰の敗者たちの「その後」は、まだまだ語り足りない。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

『青天を衝け』堤真一じゃないほうの平岡準蔵って誰?…家康に仕えた平岡一族の数奇な運命

大河で堤真一さんが演じた平岡円四郎とは別に、もう一人の平岡、準蔵が登場した。家康の代から仕えた平岡一族の数奇な歩みをたどる記事だ。同じ名字でややこしいが、系図好きにはたまらん。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

【気になる!】新書『アケメネス朝ペルシア 史上初の世界帝国』

紀元前550年から前330年まで続いた古代ペルシアのアケメネス朝を、「史上初の世界帝国」として描く新書の紹介。三つの大陸にまたがった大帝国の興亡を、新書一冊でたどれるらしい。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

令和3年度企画展1 「新時代への夜明け 水戸藩の影響を受けた志士たちの明治維新」

茨城県かすみがうら市が、水戸藩の影響を受けた志士たちの明治維新をテーマにした企画展を開いている。水戸学が幕末の志士にどれほど火をつけたか、地元目線で見直す好機である。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

ライトアップを一般初公開! 京都の妙心寺 桂春院で、幽玄の美に触れる体験を

京都・妙心寺の塔頭、桂春院が、夜のライトアップを初めて一般に公開するという。昼に見慣れた庭も、灯りの下ではまるで別の顔を見せるはず。秋の京の夜長に、ええ誘いやなあ。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

伝教大師1200年大遠忌記念 特別展『最澄と天台宗のすべて』が10月より開催—天台ゆかりの貴重な宝物や秘仏等が集結

6月に1200年大遠忌を迎えた最澄。その記念の特別展「最澄と天台宗のすべて」が10月から開かれ、天台ゆかりの宝物や秘仏が集まるそうな。比叡の山の外で、天台の千二百年を一望できる機会だ。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

村を捨てる教育ではなく「村を育てる教育」を 今なお受け継がれる教育家・東井義雄の思想

若者を都会へ送り出すための「村を捨てる教育」ではなく、「村を育てる教育」を——。兵庫の山村で子どもたちと向き合った教育家・東井義雄の思想が、今も受け継がれているという話。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

近江商人の会社なぜ長寿 SDGsに通じる三方よし 世界が探る極意

売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」。近江商人の流れをくむ会社がなぜ長く続くのか、その極意を世界が探っているという記事だ。上方の商人も、うかうかしてはおれん。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

始まればやめられぬ、五輪も戦争も 軍人宰相・小磯国昭に見る相似形

コロナ禍の東京五輪と、やめられなかった先の戦争。栃木県出身の軍人宰相・小磯国昭の歩みをたどりながら、「始まればやめられぬ」という相似形を考える記事だ。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

企画展「廃藩置県150年 藩が消えた日」高知城歴史博物館にて開催

明治4年(1871)の廃藩置県から150年。土佐藩が消えた日をふりかえる企画展が、高知城歴史博物館で開かれている。藩がなくなった日、城下の人々は何を思ったのだろう。

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歴史かわら版 ・ 2021年09月

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」世界文化遺産登録3 ...

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録から3年。北九州のゼンリンミュージアムと長崎県が、古地図や信仰用具など約40点を並べる記念の展示を開くという。

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投稿狂歌コーナー ・ お題「油小路事件と御陵衛士」

ほろ酔いで 帰る夜道は 気をつけよ 妾宅帰りの 伊東を思へ

─ ほろ酔い帰りの壬生狼ファン ─

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2021年9月号をお届けします。今月の特集は、秋成はんに油小路事件と御陵衛士を、芭蕉翁に太田道灌の江戸と千葉城を、うちはアメリカで相次ぐ銅像の撤去を受け持ちました。夜道の斬り合い、湿地に築かれた城、台座から下ろされる将軍と、どれも「誰の目で歴史を見るか」という話になった気がします。かわら版には、廃藩置県150年の高知、潜伏キリシタン遺産の登録3年、近江商人の三方よしまで並べました。6月号で取り上げた最澄の大遠忌も、10月からは特別展が始まるそうで、天台の宝物がどれほど並ぶのか、今から楽しみにしております。秋の夜長、ほろ酔いの帰り道にはくれぐれもお気をつけて。