千年の色彩が語りかける王朝の夢——東京国立博物館、特別展「やまと絵」と四大絵巻の競演
源氏物語絵巻、伴大納言絵巻、信貴山縁起絵巻、鳥獣戯画。国宝の四大絵巻が三十年ぶりに上野へ勢揃いした秋の奇跡。
東京国立博物館平成館で開催中の特別展「やまと絵 —受け継がれる王朝の美—」が、美術ファンの間で空前の熱狂を巻き起こしている。平安時代から室町・江戸に至るまで、唐絵(中国風の絵画)に対して日本固有の四季の移ろいや風俗、人々の情念を描き継いできた「やまと絵」の粋を集めた記念碑的大展覧会である。 本展最大のハイライトは、日本絵画史上の至宝と謳われる四大絵巻——「源氏物語絵巻」「伴大納言絵巻」「信貴山縁起絵巻」「鳥獣人物戯画」が約三十年ぶりに同じ展覧会場に勢揃いした奇跡的な機会だ(会期中展示替あり)。吹抜屋台の構図と引目鉤鼻の筆法で貴族社会の懊悩と情愛を濃密な鉱物顔料の中に閉じ込めた源氏絵巻、応天門の炎上と群衆の阿鼻叫喚を疾走感あふれる筆致で活写した伴大納言絵巻。さらに鉢を飛ばして米倉を空へと運ぶ奇想天外な信貴山縁起や、兎と蛙が水辺で相撲を取る鳥獣戯画の軽妙洒脱な墨線。いずれも千年の風雪を潜り抜けたとは思えぬ瑞々しさを放っている。 秋の深まりゆく上野の山でこれらの名宝に対峙するとき、旅の途上で目にしてきた各地の山河や古寺の佇まいが、古の絵師たちの筆によっていかに見事な「情景」へと昇華されてきたか、その壮大な美の系譜に深い感動を禁じ得ない。これほど贅沢な競演は、生きているうちに二度と拝めないかもしれない。千年の美の記憶に触れる至福のひとときである。
千年の色彩が語りかける王朝の夢——東京国立博物館、特別展「やまと絵」と四大絵巻の競演
源氏物語絵巻、伴大納言絵巻、信貴山縁起絵巻、鳥獣戯画。国宝の四大絵巻が三十年ぶりに上野へ勢揃いした秋の奇跡。
東京国立博物館平成館で開催中の特別展「やまと絵 —受け継がれる王朝の美—」が、美術ファンの間で空前の熱狂を巻き起こしている。平安時代から室町・江戸に至るまで、唐絵(中国風の絵画)に対して日本固有の四季の移ろいや風俗、人々の情念を描き継いできた「やまと絵」の粋を集めた記念碑的大展覧会である。 本展最大のハイライトは、日本絵画史上の至宝と謳われる四大絵巻——「源氏物語絵巻」「伴大納言絵巻」「信貴山縁起絵巻」「鳥獣人物戯画」が約三十年ぶりに同じ展覧会場に勢揃いした奇跡的な機会だ(会期中展示替あり)。吹抜屋台の構図と引目鉤鼻の筆法で貴族社会の懊悩と情愛を濃密な鉱物顔料の中に閉じ込めた源氏絵巻、応天門の炎上と群衆の阿鼻叫喚を疾走感あふれる筆致で活写した伴大納言絵巻。さらに鉢を飛ばして米倉を空へと運ぶ奇想天外な信貴山縁起や、兎と蛙が水辺で相撲を取る鳥獣戯画の軽妙洒脱な墨線。いずれも千年の風雪を潜り抜けたとは思えぬ瑞々しさを放っている。 秋の深まりゆく上野の山でこれらの名宝に対峙するとき、旅の途上で目にしてきた各地の山河や古寺の佇まいが、古の絵師たちの筆によっていかに見事な「情景」へと昇華されてきたか、その壮大な美の系譜に深い感動を禁じ得ない。これほど贅沢な競演は、生きているうちに二度と拝めないかもしれない。千年の美の記憶に触れる至福のひとときである。
難攻不落の大坂城に立ちふさがる女傑——『どうする家康』北川景子の茶々と豊臣の誇り
方広寺鐘銘事件から大坂冬の陣へ。太閤秀吉の遺言を背負い、家康の前に立ちはだかる茶々の冷徹な美しさと真田丸の築城。
大河ドラマ『どうする家康』は最終章、豊臣家との最後の決戦「大坂の陣」へと駒を進めた。関ヶ原の勝利を経て征夷大将軍となり、江戸に幕府を開いた徳川家康に対し、依然として天下の巨城に君臨し豊臣の威光を誇示する大坂城。その本丸の中心で凄まじい存在感を放っているのが、北川景子演じる茶々(淀殿)である。かつてのお市の方と二役を演じる北川の眼光は、織田と浅井の誇り、そして最愛の息子・秀頼への狂おしいまでの母性愛に満ち、画面を圧倒的な緊張感で支配している。 京都・方広寺大仏殿の「国家安康」「君臣豊楽」の鐘銘を口実に、徳川方が言いがかりをつけて豊臣討伐へと動き出す。だが、莫大な黄金を蓄えた大坂城には、関ヶ原で改易され怨念を募らせた牢人たちが全国から十万人近く集結した。その中で老いた家康を最も震撼させたのが、信州上田から参陣した真田信繁(幸村)が城郭南面に築き上げた出城「真田丸」であった。赤備えの精鋭たちが鉄砲の集中連射で押し寄せる徳川軍の前衛を次々と撃破し、天下無敵の防衛線を構築したのである。 かつて太閤秀吉公の栄華と天下統一をその目で目撃し『太閤記』を著したわたくしとしても、落日の豊臣家が放つ最期の烈烈たる輝きと、戦乱なき泰平を盤石にするためかつての主家を滅ぼさねばならぬ家康公の老境の哀哀には、万感の涙が禁じ得ない。大坂の冬の空に、いよいよ破滅の砲声が響き渡ろうとしている。
難攻不落の大坂城に立ちふさがる女傑——『どうする家康』北川景子の茶々と豊臣の誇り
方広寺鐘銘事件から大坂冬の陣へ。太閤秀吉の遺言を背負い、家康の前に立ちはだかる茶々の冷徹な美しさと真田丸の築城。
大河ドラマ『どうする家康』は最終章、豊臣家との最後の決戦「大坂の陣」へと駒を進めた。関ヶ原の勝利を経て征夷大将軍となり、江戸に幕府を開いた徳川家康に対し、依然として天下の巨城に君臨し豊臣の威光を誇示する大坂城。その本丸の中心で凄まじい存在感を放っているのが、北川景子演じる茶々(淀殿)である。かつてのお市の方と二役を演じる北川の眼光は、織田と浅井の誇り、そして最愛の息子・秀頼への狂おしいまでの母性愛に満ち、画面を圧倒的な緊張感で支配している。 京都・方広寺大仏殿の「国家安康」「君臣豊楽」の鐘銘を口実に、徳川方が言いがかりをつけて豊臣討伐へと動き出す。だが、莫大な黄金を蓄えた大坂城には、関ヶ原で改易され怨念を募らせた牢人たちが全国から十万人近く集結した。その中で老いた家康を最も震撼させたのが、信州上田から参陣した真田信繁(幸村)が城郭南面に築き上げた出城「真田丸」であった。赤備えの精鋭たちが鉄砲の集中連射で押し寄せる徳川軍の前衛を次々と撃破し、天下無敵の防衛線を構築したのである。 かつて太閤秀吉公の栄華と天下統一をその目で目撃し『太閤記』を著したわたくしとしても、落日の豊臣家が放つ最期の烈烈たる輝きと、戦乱なき泰平を盤石にするためかつての主家を滅ぼさねばならぬ家康公の老境の哀哀には、万感の涙が禁じ得ない。大坂の冬の空に、いよいよ破滅の砲声が響き渡ろうとしている。
国宝四大絵巻が上野に集結!千年の王朝美を辿る奇跡の祭典——特別展「やまと絵」
平安から江戸に至るやまと絵の粋が三十年ぶりに集結。源氏物語、伴大納言、信貴山縁起、鳥獣戯画の四大絵巻をはじめ、国宝・重文多数が織りなす空前の回顧展。
東京国立博物館で開催中の特別展「やまと絵 —受け継がれる王朝の美—」は、日本美術の歴史において中国伝来の唐絵と対比されつつ育まれてきた「やまと絵」の精華を、平安時代の黎明期から室町・江戸の近世に至るまで通覧する超大型企画である。 最大の呼び物は、何といっても日本絵画の至宝である四大絵巻(源氏物語絵巻・伴大納言絵巻・信貴山縁起絵巻・鳥獣人物戯画)が一堂に会する奇跡的な展示構成だ。貴族の雅やかな抒情を凝縮した引目鉤鼻の画面から、応天門炎上の劇的な群衆表現、空飛ぶ米倉をめぐる民衆の驚嘆、そして擬人化された動物たちの軽妙な墨線まで、日本の視覚表現が到達した最高峰の技と情熱を間近で体感できる。 四大絵巻のほかにも、四季山水図屏風や古筆切、華麗な蒔絵調度など、王朝文化の美意識が後の琳派や浮世絵へと受け継がれていく壮大な美の系譜が展示室いっぱいに広がる。日本美術の神髄に触れる、一生に一度の贅沢な機会である。
- 展覧会
- 特別展「やまと絵 —受け継がれる王朝の美—」
- 会場
- 東京国立博物館 平成館
- 会期
- 2023年10月11日(水)〜12月3日(日)
- 開館時間
- 9:30〜17:00(金・土曜は20:00まで、入館は閉館の60分前まで)
- 休館日
- 月曜日(ただし11月27日は開館)
- 料金
- 一般 2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円、中学生以下無料(土日祝は日時指定予約制)
- 公式サイト
- https://yamatoe2023.jp/
※上記は2026年9月19日時点の情報です。会期・開館時間・料金などは変更される場合があります。お出かけの前に、正確な情報は公式サイトをご確認ください。
国宝四大絵巻が上野に集結!千年の王朝美を辿る奇跡の祭典——特別展「やまと絵」
平安から江戸に至るやまと絵の粋が三十年ぶりに集結。源氏物語、伴大納言、信貴山縁起、鳥獣戯画の四大絵巻をはじめ、国宝・重文多数が織りなす空前の回顧展。
東京国立博物館で開催中の特別展「やまと絵 —受け継がれる王朝の美—」は、日本美術の歴史において中国伝来の唐絵と対比されつつ育まれてきた「やまと絵」の精華を、平安時代の黎明期から室町・江戸の近世に至るまで通覧する超大型企画である。 最大の呼び物は、何といっても日本絵画の至宝である四大絵巻(源氏物語絵巻・伴大納言絵巻・信貴山縁起絵巻・鳥獣人物戯画)が一堂に会する奇跡的な展示構成だ。貴族の雅やかな抒情を凝縮した引目鉤鼻の画面から、応天門炎上の劇的な群衆表現、空飛ぶ米倉をめぐる民衆の驚嘆、そして擬人化された動物たちの軽妙な墨線まで、日本の視覚表現が到達した最高峰の技と情熱を間近で体感できる。 四大絵巻のほかにも、四季山水図屏風や古筆切、華麗な蒔絵調度など、王朝文化の美意識が後の琳派や浮世絵へと受け継がれていく壮大な美の系譜が展示室いっぱいに広がる。日本美術の神髄に触れる、一生に一度の贅沢な機会である。
- 展覧会
- 特別展「やまと絵 —受け継がれる王朝の美—」
- 会場
- 東京国立博物館 平成館
- 会期
- 2023年10月11日(水)〜12月3日(日)
- 開館時間
- 9:30〜17:00(金・土曜は20:00まで、入館は閉館の60分前まで)
- 休館日
- 月曜日(ただし11月27日は開館)
- 料金
- 一般 2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円、中学生以下無料(土日祝は日時指定予約制)
- 公式サイト
- https://yamatoe2023.jp/
※上記は2026年9月19日時点の情報です。会期・開館時間・料金などは変更される場合があります。お出かけの前に、正確な情報は公式サイトをご確認ください。
明石全登(掃部)
自邸に宣教師をかくまうほど信仰篤かった、豊臣方随一のキリシタン武将
宇喜多秀家の重臣であった熱心なキリシタン武将で、洗礼名を「ジョアン」という。自邸に宣教師をかくまい保護するほど信仰篤く、関ヶ原の戦いで西軍が敗れ宇喜多家が改易されたのちは黒田家に身を寄せ、筑前秋月で雌伏の時を過ごした。慶長十九年(1614年)、豊臣秀頼の招きに応じて大坂城へ入城し、みずから率いるキリシタン部隊とともに冬・夏両陣を転戦。大坂落城の際は教えにより自刃を禁じられていたため、討死とも落ち延びたとも伝わるのみで、確たる最期の記録は残っていない。禁教下の江戸幕府にとってすら行方を追い切れなかった謎多き武将として、後世さまざまな生存説を生み続けている。武と信仰を最後まで両立させた、戦国期には稀な生き様であった。
明石全登(掃部)
自邸に宣教師をかくまうほど信仰篤かった、豊臣方随一のキリシタン武将
宇喜多秀家の重臣であった熱心なキリシタン武将で、洗礼名を「ジョアン」という。自邸に宣教師をかくまい保護するほど信仰篤く、関ヶ原の戦いで西軍が敗れ宇喜多家が改易されたのちは黒田家に身を寄せ、筑前秋月で雌伏の時を過ごした。慶長十九年(1614年)、豊臣秀頼の招きに応じて大坂城へ入城し、みずから率いるキリシタン部隊とともに冬・夏両陣を転戦。大坂落城の際は教えにより自刃を禁じられていたため、討死とも落ち延びたとも伝わるのみで、確たる最期の記録は残っていない。禁教下の江戸幕府にとってすら行方を追い切れなかった謎多き武将として、後世さまざまな生存説を生み続けている。武と信仰を最後まで両立させた、戦国期には稀な生き様であった。
「悪女・愛妾」の虚像を排し、豊臣の主たる母の実像に迫る——福田千鶴『淀殿』
豊臣を滅亡へ導いた毒婦か、あるいは気高き母か。後世の軍記物が捏造した偏見を同時代の一次史料で徹底検証し、近世政治史のなかに位置づけ直した決定版評伝。
ミネルヴァ書房の「ミネルヴァ日本評伝選」より刊行された福田千鶴氏の『淀殿――われ太閤の妻となりて』は、江戸時代の儒教的道徳観や軍記物によって「豊臣を滅ぼした悪女」と歪められてきた茶々の実像を、同時代の一次史料から鮮やかに蘇らせた名著である。 著者は、浅井三姉妹の長女として生を受けた茶々が、単なる「秀吉の側室」にとどまらず、豊臣政権下において北政所(おね)と並び立つ「妻の一人」として遇されていた事実を実証する。特に秀吉没後、幼き秀頼の庇護者にして大坂城奥向の絶対的指導者(おふくろ様)として、公家・武家との贈答儀礼や政治決裁に深く関与していた構造を解き明かす筆致は圧巻だ。 『太閤記』を著したわたくし(小瀬甫庵)としても、後世の俗書が面白おかしく誇張した「浅はかな女の我執」という通俗史観に終止符を打ち、乱世の終わりにあって豊臣の家名と我が子の生存のために知略を尽くした誇り高き政治家としての姿を浮き彫りにした本書には、深い敬意を抱かざるを得ない。 大坂の陣をめぐる歴史劇を鑑賞する際にも、当時の大名家における「母の政治的役割」を理解するための必読書といえよう。
「悪女・愛妾」の虚像を排し、豊臣の主たる母の実像に迫る——福田千鶴『淀殿』
豊臣を滅亡へ導いた毒婦か、あるいは気高き母か。後世の軍記物が捏造した偏見を同時代の一次史料で徹底検証し、近世政治史のなかに位置づけ直した決定版評伝。
ミネルヴァ書房の「ミネルヴァ日本評伝選」より刊行された福田千鶴氏の『淀殿――われ太閤の妻となりて』は、江戸時代の儒教的道徳観や軍記物によって「豊臣を滅ぼした悪女」と歪められてきた茶々の実像を、同時代の一次史料から鮮やかに蘇らせた名著である。 著者は、浅井三姉妹の長女として生を受けた茶々が、単なる「秀吉の側室」にとどまらず、豊臣政権下において北政所(おね)と並び立つ「妻の一人」として遇されていた事実を実証する。特に秀吉没後、幼き秀頼の庇護者にして大坂城奥向の絶対的指導者(おふくろ様)として、公家・武家との贈答儀礼や政治決裁に深く関与していた構造を解き明かす筆致は圧巻だ。 『太閤記』を著したわたくし(小瀬甫庵)としても、後世の俗書が面白おかしく誇張した「浅はかな女の我執」という通俗史観に終止符を打ち、乱世の終わりにあって豊臣の家名と我が子の生存のために知略を尽くした誇り高き政治家としての姿を浮き彫りにした本書には、深い敬意を抱かざるを得ない。 大坂の陣をめぐる歴史劇を鑑賞する際にも、当時の大名家における「母の政治的役割」を理解するための必読書といえよう。
千年の 絵巻広げて 見渡せば 鳥獣跳ねて 源氏ため息
─ 上野の茶坊主 ─
千年の 絵巻広げて 見渡せば 鳥獣跳ねて 源氏ため息
─ 上野の茶坊主 ─
錦秋の候、上野の東京国立博物館にて「やまと絵」展に参上し、国宝四大絵巻の卓越した筆致を息を詰めて見つめてまいりました。千年前の人々が残した豊かな物語世界と鮮烈な色彩美に胸を打たれる一方、テレビ画面ではいよいよ大坂冬の陣の幕が開き、わが大坂の街の運命に思いを馳せております。千年の美の精華と、戦国乱世の最後の激突。歴史の光と影が重なり合う霜月、朝夕の冷え込みも厳しくなってまいりましたので、皆さまもどうぞ暖かくして歴史の醍醐味をお楽しみください。
錦秋の候、上野の東京国立博物館にて「やまと絵」展に参上し、国宝四大絵巻の卓越した筆致を息を詰めて見つめてまいりました。千年前の人々が残した豊かな物語世界と鮮烈な色彩美に胸を打たれる一方、テレビ画面ではいよいよ大坂冬の陣の幕が開き、わが大坂の街の運命に思いを馳せております。千年の美の精華と、戦国乱世の最後の激突。歴史の光と影が重なり合う霜月、朝夕の冷え込みも厳しくなってまいりましたので、皆さまもどうぞ暖かくして歴史の醍醐味をお楽しみください。