狛犬9種類集めよう——福島県南、まさかの「カードめぐり」で夏の観光戦線
人気イラストレーター描き下ろしの狛犬カードを集めて県南9市町村を巡る観光企画がスタート。能登の被災神社の狛犬移築や現代アートまで、狛犬の夏は忙しい。
夏本番、神社仏閣の境内を静かに守ってきた狛犬界隈に、思いがけぬ新風が吹き荒れている。福島県南地方の九市町村が手を組み、夏の観光戦線へと仕掛けた「おしゃべり狛犬カードめぐり」がその火付け役だ。人気イラストレーターが愛嬌たっぷりに描き下ろした狛犬カードを全九種類コンプリートしてもらおうという周遊企画で、47NEWSやTBS NEWS DIGなど各社が「県南地方の『狛犬』が激かわカードに」と報じ、若い世代や家族連れのパワースポット巡りとして耳目を集めている。 大坂町人あがりの西鶴から見れば、「社の守り神をカードに見立てて人を呼び込むとは、なかなかの商売上手やないか」と膝を打ちたくなる仕掛けである。古くから名匠・小松寅吉らが彫り上げた表情豊かな石像群に現代の意匠を重ね、九つの町を巡らせて銭を落とさせる。信仰の場を損なわぬ工夫を凝らしつつ、地域の魅力と実利を結びつける手腕は、現代の町おこし興行として実に手堅い筋立てといえよう。 一方で、能登半島地震で被災した椿原天満宮の狛犬移築作業がクラウドファンディングで報告され、「最後のチャンス」という切実な言葉に復興の険しさがにじんでいた。倒壊した石造物を守り継ぐ祈りと、カードを手に巡る夏の旅情。現代アーティスト小松美羽さんによる二匹の狛犬作品「宇宙を見上げよ」の公開や、北海道・滝川での「笑う狛犬バターサブレ」発売など、神前で阿吽の呼吸を刻んできた狛犬たちは、いまや信仰と文化、観光の垣根を軽やかに飛び越えて人々を惹きつけている。
狛犬9種類集めよう——福島県南、まさかの「カードめぐり」で夏の観光戦線
人気イラストレーター描き下ろしの狛犬カードを集めて県南9市町村を巡る観光企画がスタート。能登の被災神社の狛犬移築や現代アートまで、狛犬の夏は忙しい。
夏本番、神社仏閣の境内を静かに守ってきた狛犬界隈に、思いがけぬ新風が吹き荒れている。福島県南地方の九市町村が手を組み、夏の観光戦線へと仕掛けた「おしゃべり狛犬カードめぐり」がその火付け役だ。人気イラストレーターが愛嬌たっぷりに描き下ろした狛犬カードを全九種類コンプリートしてもらおうという周遊企画で、47NEWSやTBS NEWS DIGなど各社が「県南地方の『狛犬』が激かわカードに」と報じ、若い世代や家族連れのパワースポット巡りとして耳目を集めている。 大坂町人あがりの西鶴から見れば、「社の守り神をカードに見立てて人を呼び込むとは、なかなかの商売上手やないか」と膝を打ちたくなる仕掛けである。古くから名匠・小松寅吉らが彫り上げた表情豊かな石像群に現代の意匠を重ね、九つの町を巡らせて銭を落とさせる。信仰の場を損なわぬ工夫を凝らしつつ、地域の魅力と実利を結びつける手腕は、現代の町おこし興行として実に手堅い筋立てといえよう。 一方で、能登半島地震で被災した椿原天満宮の狛犬移築作業がクラウドファンディングで報告され、「最後のチャンス」という切実な言葉に復興の険しさがにじんでいた。倒壊した石造物を守り継ぐ祈りと、カードを手に巡る夏の旅情。現代アーティスト小松美羽さんによる二匹の狛犬作品「宇宙を見上げよ」の公開や、北海道・滝川での「笑う狛犬バターサブレ」発売など、神前で阿吽の呼吸を刻んできた狛犬たちは、いまや信仰と文化、観光の垣根を軽やかに飛び越えて人々を惹きつけている。
白洲次郎、GHQと対峙した男の“召集忌避”の真相
終戦連絡中央事務局でGHQと渡り合った白洲次郎。父・吉田茂が明かした召集忌避の真相と、カラー写真150枚が語る1950年代の日常。
産経ニュースが伝えた「白洲次郎は終戦連絡中央事務局でGHQと対峙 父・吉田茂が明かした〝召集忌避〟の真相」という記事に唸らされた。GHQとの交渉役として知られる白洲次郎だが、その父・吉田茂が語ったという召集忌避の真相は、これまであまり語られてこなかった角度からの逸話で新鮮だった。あわせて紹介したいのが、沖縄タイムス社の「1950年代の市場、日常の風景 GHQカメラマンが捉えた戦後」という記事。貴重なカラー写真150枚が新たに確認されたとのことで、当時の生活の質感が鮮やかに蘇ってくる。 毎日新聞の学生コーナー「キャンパる」には、戦後の婦人行政草創期を回想する記事があり、GHQ流統治に感じた恩恵と違和感が率直に語られていた。統治する側とされる側、双方の視点が積み重なることで占領期の実像が立体的に見えてくる。そして朝日新聞では「繰り返される『GHQの圧力』論」として、旧11宮家からの男系男子養子案をめぐる議論の底流にこの論法があることが改めて指摘されていた。80年前の出来事が、今なお現在進行形の政治論争の中で参照され続けているというのは、占領期というテーマの射程の長さを物語っている。
白洲次郎、GHQと対峙した男の“召集忌避”の真相
終戦連絡中央事務局でGHQと渡り合った白洲次郎。父・吉田茂が明かした召集忌避の真相と、カラー写真150枚が語る1950年代の日常。
産経ニュースが伝えた「白洲次郎は終戦連絡中央事務局でGHQと対峙 父・吉田茂が明かした〝召集忌避〟の真相」という記事に唸らされた。GHQとの交渉役として知られる白洲次郎だが、その父・吉田茂が語ったという召集忌避の真相は、これまであまり語られてこなかった角度からの逸話で新鮮だった。あわせて紹介したいのが、沖縄タイムス社の「1950年代の市場、日常の風景 GHQカメラマンが捉えた戦後」という記事。貴重なカラー写真150枚が新たに確認されたとのことで、当時の生活の質感が鮮やかに蘇ってくる。 毎日新聞の学生コーナー「キャンパる」には、戦後の婦人行政草創期を回想する記事があり、GHQ流統治に感じた恩恵と違和感が率直に語られていた。統治する側とされる側、双方の視点が積み重なることで占領期の実像が立体的に見えてくる。そして朝日新聞では「繰り返される『GHQの圧力』論」として、旧11宮家からの男系男子養子案をめぐる議論の底流にこの論法があることが改めて指摘されていた。80年前の出来事が、今なお現在進行形の政治論争の中で参照され続けているというのは、占領期というテーマの射程の長さを物語っている。
お家を守るため毒を仰いだか——前田利長、「服毒死」の陰に隠れた生涯
直木賞作家が完結させた長編小説と、全国アワード1位の騎馬像で再燃した関心。加賀百万石の礎を守った二代目の、あまりに重い「服毒死」説に迫る。
2026年、前田利長にまつわる話題が思いがけず重なった年やった。1月には高岡市立博物館の《鋳銅前田利長騎馬像》が全国「午年」ミュージアムアワードで1位に輝き、7月には直木賞作家・安部龍太郎氏が加賀前田家四代を描く長編を完結させ、文春オンラインの取材に「家を守るため、国を守るために毒を召された」と、利長の「服毒死」説について語っている。 利長は前田利家の長男。父は信長・秀吉に仕えた歴戦の勇将やったが、利長自身は信長の娘を娶り、律義な二代目として父の遺した加賀百万石を継いだ。ところが慶長四年(1599年)、父の死からわずか五ヶ月後、家康方から「前田家に謀反の疑いあり」との難癖がつき、加賀征伐が現実味を帯びる。利長が選んだのは徹底抗戦やのうて恭順やった。実母・芳春院(まつ)を人質として江戸へ送り出し、なんと十四年ものあいだ帰さぬことで、家を守り抜いたのである。 その甲斐あって関ヶ原では東軍につき、前田家は所領を保った。だが慶長十九年(1614年)、隠居先の高岡城で利長は没する。死因は服毒とも伝わり、これ以上家に嫌疑がかからぬよう、自ら幕引きを図ったのではという説が根強い。養子の利常は師恩に報いるべく瑞龍寺を建立、現在は国宝として遺る。 母を差し出し、おそらくは己の命まで差し出して守った三百年の泰平。全国区の人気を得た騎馬像の勇壮な横顔の裏に、これほど重い覚悟が眠っていたとは、なんとも言葉に詰まる話である。
お家を守るため毒を仰いだか——前田利長、「服毒死」の陰に隠れた生涯
直木賞作家が完結させた長編小説と、全国アワード1位の騎馬像で再燃した関心。加賀百万石の礎を守った二代目の、あまりに重い「服毒死」説に迫る。
2026年、前田利長にまつわる話題が思いがけず重なった年やった。1月には高岡市立博物館の《鋳銅前田利長騎馬像》が全国「午年」ミュージアムアワードで1位に輝き、7月には直木賞作家・安部龍太郎氏が加賀前田家四代を描く長編を完結させ、文春オンラインの取材に「家を守るため、国を守るために毒を召された」と、利長の「服毒死」説について語っている。 利長は前田利家の長男。父は信長・秀吉に仕えた歴戦の勇将やったが、利長自身は信長の娘を娶り、律義な二代目として父の遺した加賀百万石を継いだ。ところが慶長四年(1599年)、父の死からわずか五ヶ月後、家康方から「前田家に謀反の疑いあり」との難癖がつき、加賀征伐が現実味を帯びる。利長が選んだのは徹底抗戦やのうて恭順やった。実母・芳春院(まつ)を人質として江戸へ送り出し、なんと十四年ものあいだ帰さぬことで、家を守り抜いたのである。 その甲斐あって関ヶ原では東軍につき、前田家は所領を保った。だが慶長十九年(1614年)、隠居先の高岡城で利長は没する。死因は服毒とも伝わり、これ以上家に嫌疑がかからぬよう、自ら幕引きを図ったのではという説が根強い。養子の利常は師恩に報いるべく瑞龍寺を建立、現在は国宝として遺る。 母を差し出し、おそらくは己の命まで差し出して守った三百年の泰平。全国区の人気を得た騎馬像の勇壮な横顔の裏に、これほど重い覚悟が眠っていたとは、なんとも言葉に詰まる話である。
手も足も彫らない狛犬 ― 佐賀の社で「肥前狛犬」に会う
今月は福島の狛犬カードで狛犬界隈が賑やかだが、こちらは西へ、佐賀まで杖を向けた。社の砂の上にちょこんと座っていたのは、手足も彫り分けない素朴な石の獣、肥前狛犬である。

狛犬と聞けば、台座の上で胸を張り、たてがみを巻き上げた獅子の姿を思い浮かべる人が多いだろう。ところが佐賀市内のとある神社で出会った一体は、そのどれとも違っていた。 白い砂の上に、台座もなくじかに腰を下ろしている。ずいぶん小ぶりで、手足は胴と一続きの石の塊。まるい頭に目と鼻がかすかに刻まれている程度で、その頭には白い苔の斑点が散り、風雨にさらされた肌はざらりとしている。可愛らしいと言えば可愛らしいが、じっと見ていると、長い年月を黙って座り続けてきたものの重みが伝わってくる。 これが「肥前狛犬」と呼ばれるものだったりする。佐賀を中心に、かつての肥前国一帯に見られる石造の狛犬で、江戸時代の初めごろを中心に作られたとされる。後の世の精巧な狛犬に比べると造りはごく簡素で、そのぶん一体ごとの顔つきに、作り手の手癖がそのまま残っているのが面白い。 かわら版では以前、削れて形がおぼろになった「概念になりつつある狛犬」が話題になったが、こちらは最初から概念に近いところで彫られた狛犬とでも言おうか。生前の旅では九州まで足を延ばせなかった身ゆえ、こうして肥前の社で杖を止められたのは感慨深い。脇の植え込みの緑を背に、小さな番人は今日も社の前に座っている。
手も足も彫らない狛犬 ― 佐賀の社で「肥前狛犬」に会う
今月は福島の狛犬カードで狛犬界隈が賑やかだが、こちらは西へ、佐賀まで杖を向けた。社の砂の上にちょこんと座っていたのは、手足も彫り分けない素朴な石の獣、肥前狛犬である。

狛犬と聞けば、台座の上で胸を張り、たてがみを巻き上げた獅子の姿を思い浮かべる人が多いだろう。ところが佐賀市内のとある神社で出会った一体は、そのどれとも違っていた。 白い砂の上に、台座もなくじかに腰を下ろしている。ずいぶん小ぶりで、手足は胴と一続きの石の塊。まるい頭に目と鼻がかすかに刻まれている程度で、その頭には白い苔の斑点が散り、風雨にさらされた肌はざらりとしている。可愛らしいと言えば可愛らしいが、じっと見ていると、長い年月を黙って座り続けてきたものの重みが伝わってくる。 これが「肥前狛犬」と呼ばれるものだったりする。佐賀を中心に、かつての肥前国一帯に見られる石造の狛犬で、江戸時代の初めごろを中心に作られたとされる。後の世の精巧な狛犬に比べると造りはごく簡素で、そのぶん一体ごとの顔つきに、作り手の手癖がそのまま残っているのが面白い。 かわら版では以前、削れて形がおぼろになった「概念になりつつある狛犬」が話題になったが、こちらは最初から概念に近いところで彫られた狛犬とでも言おうか。生前の旅では九州まで足を延ばせなかった身ゆえ、こうして肥前の社で杖を止められたのは感慨深い。脇の植え込みの緑を背に、小さな番人は今日も社の前に座っている。
板坂耀子
近世紀行文学を専門とする国文学者。芭蕉の紀行文の“お約束”を解き明かす
今号の「こんな人」は板坂耀子さん。近世(江戸期)の紀行文学を専門とする国文学者で、関西学院大学で教鞭を執ってきた人物である。著書『江戸の紀行文』などを通じて、江戸期の紀行文が必ずしも旅の記録をありのまま綴ったものやなく、名所旧跡を訪れたという体裁を整えるための、一種のお約束や型を踏まえて書かれていたことを指摘しているという。松尾芭蕉の『おくのほそ道』も、脚色や虚構が随所に織り込まれた文芸作品として読み解かれてきており、紀行文というジャンルそのものの成り立ちを問い直す研究は、地味やが実に骨太な仕事やと思う。今号の取材コーナーでも芭蕉はんに佐賀の社まで杖を向けてもろたところやったので、なおさら興味深く紹介させてもろた。
板坂耀子
近世紀行文学を専門とする国文学者。芭蕉の紀行文の“お約束”を解き明かす
今号の「こんな人」は板坂耀子さん。近世(江戸期)の紀行文学を専門とする国文学者で、関西学院大学で教鞭を執ってきた人物である。著書『江戸の紀行文』などを通じて、江戸期の紀行文が必ずしも旅の記録をありのまま綴ったものやなく、名所旧跡を訪れたという体裁を整えるための、一種のお約束や型を踏まえて書かれていたことを指摘しているという。松尾芭蕉の『おくのほそ道』も、脚色や虚構が随所に織り込まれた文芸作品として読み解かれてきており、紀行文というジャンルそのものの成り立ちを問い直す研究は、地味やが実に骨太な仕事やと思う。今号の取材コーナーでも芭蕉はんに佐賀の社まで杖を向けてもろたところやったので、なおさら興味深く紹介させてもろた。
文月に入り、照りつける陽射しとともに本格的な夏がやってまいりました。今号は福島県南のユニークな狛犬カードめぐりや、前田利長の「服毒死」説に迫る歴史探訪、そして終戦前後の混沌を生き抜いた白洲次郎とGHQの対峙など、知られざる歴史の実像を多角的に掘り起こす誌面となりました。統治の舞台裏から地域のささやかな伝承に至るまで、古人の残した足跡を辿る作業は、いつになっても好奇心が尽きないものでございます。熱中症にはくれぐれもお気をつけいただき、冷たいお茶片手に歴史の旅をお楽しみいただければ幸いです。(木村蒹葭堂)
文月に入り、照りつける陽射しとともに本格的な夏がやってまいりました。今号は福島県南のユニークな狛犬カードめぐりや、前田利長の「服毒死」説に迫る歴史探訪、そして終戦前後の混沌を生き抜いた白洲次郎とGHQの対峙など、知られざる歴史の実像を多角的に掘り起こす誌面となりました。統治の舞台裏から地域のささやかな伝承に至るまで、古人の残した足跡を辿る作業は、いつになっても好奇心が尽きないものでございます。熱中症にはくれぐれもお気をつけいただき、冷たいお茶片手に歴史の旅をお楽しみいただければ幸いです。(木村蒹葭堂)